曲解

なぜか 1977年あたりから 山口洋子が盗作をしたと あちらこちらで囁かれるようになった 山口洋子 の『よこはま・たそがれ』が Endre Ady の『Egyedül a engerrel』に 似ているのだという 「よこはま たそがれ ホテルの小部屋」が 「Tengerpart, alkony, kis hotel-szoba」に そっくりだとか 「あの人は 行って行ってしまった もう帰らない」が 「Elment, nem látom többé már soha」みたいだとか みんな 勝手なことをいい続け インターネット上にも 数多く書かれてきた ** 山口洋子 の「よこはま・たそがれ」が発表されたのが 1971年 Endre Ady の ハンガリー語の詩集が 徳永康元 によって訳されて 「アディ・エンドレ詩集」として発売されたのが 1977年 この本のなかで『Egyedül a engerrel』という詩が 『ひとり海辺で』と訳されて 紹介されている 「Tengerpart, alkony, kis hotel-szoba」は 「海辺、たそがれ、ホテルの小部屋」と訳され 「Elment, nem látom többé már soha」を 「あの人は行ってしまった、もう戻ることはない」と訳されている 訳したのは 東京外国語大学名誉教授 で 関西外国語大学教授 の徳永康元 当時 売れに売れていた 山口洋子 の「よこはま・たそがれ」を 知らなかったわけがない それなのに「徳永康元 が 山口洋子 を真似た」とは 誰もいわない ** 山口洋子の感性が鋭かったことは 残された文章を読めばよくわかる 徳永康元の感性が凡庸であったことも 残された文章から見て取れる 「たそがれ、ホテルの小部屋」という言葉遣いは 山口洋子のものだし 「あの人は行ってしまった」という言葉遣いも 山口洋子のものだ その言葉遣いは 徳永康元 のものでも Endre Ady のものでもない 徳永康元 が真似をしたという ただそれだけのことなのだ 山口洋子は 何を言われても 気にしていなかったという それはそうだ 盗作なんか していなかったのだから でもそこは山口洋子のこと どこかで仕返しをしていたに違いない ** 徳永康元 のウィキペディアの翻訳書のリストのなかに 「アディ・エンドレ詩集」は 載っていない